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Jマテ.カッパープロダクツが挑んだ「組織の壁」の打破【前編】

なぜIT部門ではなく「生産管理」がDXを主導したのか
皆さんは、「DX推進」と聞いてどんな光景を思い浮かべるでしょうか。
「ITに詳しい専門家、ITベンダーが、新しいシステムを導入、提案してくれる」「最新のツールを使えば、仕事が楽になる」――もしそうしたイメージをお持ちなら、一度その先入観を横に置いて今回のブログをみてください。
私たちJマテ.カッパープロダクツでは、2050年に向けた労働力不足や、働き方改革による休日増加というウェルビーイングと実際厳しい現実に直面し改善とDXを進めています。この課題を乗り越えるために最初に私たちが選んだのは、専門部署に任せきりにするDXではありませんでした。
本レポートでは、Jマテ.カッパープロダクツにおいて、私たちがどのように組織を組み換え、なぜ「生産管理部」をリーダーに据えて変革を進めたのか。その舞台裏をお伝えします。
背景:人を減らすのではなく「活かす」ための決断
私たちが取り組んでいる変革の真の目的は、単なる人員削減(省人化)ではありません。私たちが目指しているのは「活人化(かつじんか)」。当時の山本社長が工場見学で述べていた言葉です。
2050年には働く世代が約3割減ると予測される中、限られた人数で生産能力を維持し、かつ従業員がしっかりと休みを取れる環境を作る。そのためには、付加価値を生まない作業を見直し、そこで生まれた余力を「人にしかできない、より高度な仕事」や「技能の習得」「教育」へ振り向ける必要があります。
この「活人化」を実現するための手段こそが、デジタル技術を活用した業務の再設計、デジタル化なのです。
現状分析:見えてきたのは「情報の断片化」というボトルネック
プロジェクトを始動させるにあたり、私たちはまず「事前の棚卸し」「現状の見える化」を徹底的に行いました。いきなりシステムを導入するのではなく、今の仕事のどこに「停滞」や「ムダ」が潜んでいるのかを分析するためです。
そこで浮き彫りになったのは、部署間の「情報の断片化」している実態でした。
営業の受注、お客様への納期回答、製造の進捗、物流の配車、注残管理、――それぞれの部署が一生懸命に動いていても、情報がスムーズに繋がっていなければ、二重入力や確認のための電話など「手待ちのムダ」が発生します。
こうした内容は縦割り組織ではないですが、情報がつながっていない弊害、それが私たちの生産性の中での最大のボトルネックでした。一部署だけの改善(部分最適)では、会社全体を良くすることはできません。だからこそ、組織の在り方そのものを見直す必要があったのです。
組織設計:なぜ「生産管理部」がリーダーなのか
私たちは、DXを推進するための「専任部署」をあえて作りませんでした。その代わりに結成したのが、社長をトップに据えた「全部署横断型のプロジェクトチーム」です。
そして、そのリーダーに任命されたのは、IT部門ではなく「生産管理部」の担当(現在は経営企画室)でした。これには、製造業の実務に基づいた明確な理由があります。
全体最適を俯瞰できる「ハブ」の機能
生産管理部は、日常業務において営業、製造、物流のすべてと関わり、ほぼ全部署と調整を行っています。製造業の仕組みの中では情報が集まる中心にある部署です。どこで情報が止まり、どの部署が困っているのかを最も肌で感じている部署だからこそ、会社全体を俯瞰した「全体最適」の視点を持つことができていました。
現場の痛みがわかる「現場の代弁者」
ITの専門用語を並べるのではなく、「この入力作業を自動化すれば、現場の負担がどれだけ減るか」という実務レベルの議論が必要です。生産管理部がシステムと現場の間で、当事者意識を持ってリーダーシップを部署として執ることで、ITベンダーへの丸投げを防ぎ、現場のニーズに即した「本当に使いやすい仕組み」を設計することが可能になったと振り返ります。
「標準作業のないところに改善はない」というトヨタ生産方式(TPS)の基本に立ち返り、まずは業務フローを標準化し、誰がやっても同じ結果が出る土台を作る。この泥臭いアナログの現場の見える化、整理を、現場を熟知したメンバーが主導で行ったことが、私たちの大きな強みとなりました。
実行体制:トップダウンの決断とボトムアップの知恵を融合させる
私たちのプロジェクトチームは、発足当初のプロジェクトの21名から、2025年現在では経営と部長を中心とする24名体制へと進化しています。ここでは、「経営層」と「現場」がダイレクトに繋がるトップダウンとプロジェクトのボトムアップでの両輪での仕組みを大切にしています。
迅速な意思決定と現場の実験
DX推進は社長直轄のチームであるため、予算配分や費用の承認が極めて迅速です。一方で、具体的な課題解決は現場から選抜されたメンバーがプロジェクトメンバーとして担当しています。
例えば、定型業務を自動化するRPAやノーコードツールの導入では、最初から完璧を求めず、まずは小さく試す「実証実験」スモールスタートを繰り返しました。
現場担当者が自ら「自分たちの仕事を楽にする」改善を行い、その成果を経営層が即座に評価・承認する。このサイクルが回ることで、実行スピードは飛躍的に向上しました。大事なことはイメージが共有できるところです。
成果とこれから:全社員が「自分事」として捉える組織へ
現在、推進リーダーの役割は「経営企画室」へと引き継がれ専任化されましたが、全部署横断のプロジェクト体制は今も案件ごとに継続しています。プロジェクトとしてメンバーを定期的に入れ替えることで、デジタル改善の経験を全社に波及させて拡がりを見せているのです。
活動の結果、残業時間の削減や、情報の二重管理の解消といった具体的な数字の変化が現れ始めています。しかし、それ以上に価値があるのは、「自分たちの手で仕事を変えられる=改善できる」という自信が、組織全体に広がりつつあることです。
DXの活動に携わる皆さんへ
最後にお伝えしたいのは、「改善が土台であり、デジタルはその1つの手段である」ということです。
どんなに優れたツールを導入しても、土台となる組織の連携や標準作業やルールがバラバラでは、その効果は発揮されません。
私たちの挑戦は、TPSといういわば昭和からの製造業の基礎基本である知恵を現代の技術で補完し、現場をより良くし続けるために最後にシステムをいれています。
ツールを導入して満足するのではなく、常に「もっと楽に、もっと価値を高める方法はないか、製造原価を下げる取り組みが無いか?」と問い続ける姿勢。その姿勢こそが、Jマテ.カッパープロダクツが目指す、本当の意味での現場変革=DXです。
皆さんの現場でも、まずは「部署間の情報の壁」に目を向けるところから始めてみませんか。現場の担当者は薄々感じています。そこには、まだ見ぬ改善のヒントが必ず眠っているはずです。
後編はこちら
Jマテ.カッパープロダクツが挑んだ「組織の壁」の打破【後編】 | 銅合金辞典