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1,000時間の削減という目標から始まった「活人化」の原点 —— 現場とデジタルが融合する次世代のモノづくり(前編)

はじめに
今回のDXブログは、2022年当初の推進当初まで遡ります。今、製造業界全体が直面している「将来の労働力不足」という大きな壁。私たちもまた、この課題に対し、単なる効率化を超えた「働き方の変革」に取り組んでいます。
今回は、2022年のDX推進当初、私たちがどのように現場を見つめ直し、アナログな改善とデジタルの力を組み合わせて、目標1,000時間、実績は5,000時間を超える(2026月3月末5,915時間)業務時間の削減と「活人化(かつじんか)」を実現したのか。その2022年の始動から、2026年現在の最新状況までの軌跡を、詳細なレポートとしてお届けします。
なぜ今、私たちに「攻めの改善」が必要なのか
私たちが2022年当時DX(デジタルトランスフォーメーション)の舵を切った最大の理由は、2050年には生産年齢人口が約3割減少するという未来の予測にあります。将来的に働き手が減るということは、単に採用が難しくなるだけでなく、現状のやり方のままでは操業を維持することすら困難になることを意味します。
当社では2015年から、トヨタ生産方式(TPS)をベースとした独自の「Jマテ生産方式(JPS)」を導入し、現場のムダ取りや人材育成に励んできました。しかし、これからの時代を乗り切っていくためには、これまでのアナログな改善に加え、デジタルを武器とした「一歩踏み込んだ生産性向上」が不可欠であると判断しました。
そこで2022年当時、私たちが掲げたのが、「活人化(かつじんか)」という考え方です。
これは、デジタル化によって安易に人を減らすための「少人化(しょうにんか)」を目指すものではありません。ロボット(RPA)に任せられる定型作業はデジタルに任せ、そこで捻出した時間を「人でなければできない付加価値の高い仕事」に充てていく。人の持つ可能性を最大限に引き出し、働きがいのある職場を創るための高い目標を設定しました。
推進当初の目標:経営トップが示した「覚悟」の数字
当社のDX推進が本格的に動き出したのは、2022年4月に新たに社長となった山本耕治の代表取締役社長就任が大きなきっかけとなりました。経営トップ自らが「将来の危機感」を社員と共有し、DXを経営の最優先事項に据え進めることとなりました。当時はデジタルに強い3名と山本社長にて、同好会のような集まりかた検証を始めていきました。
本格始動にあたり、私たちは「言葉」だけでなく「数字」による定量目標を設定しました。
年間1,000時間の工数削減という指標
私たちはまず、初年度2022年内に「年間1,000時間の業務時間を削減する」ことを目標としました。この「1,000時間」という数字は、決して適当に決めたものではありません。
「1日4時間(半日分)× 21営業日 × 12ヶ月 = 約1,008時間」
つまり、毎日8時間一人の担当者が行っている「付加価値を産まない付随作業」を半分にする、という極めて具体的で実感の持てる目標からその手段としてのDX、デジタルであるRPAに着目し進めて行きました。
早期の「DX認定」取得への挑戦
また、経営者としての覚悟を形にし、社内外に見せる姿勢を示すため、年内での「DX認定事業者」の取得を目標に設定しました。これは、単なるシステムの導入ではなく、当社のビジョンや組織体制がデジタルの時代に適応しているか(DX-Ready)を国に認めてもらうための、重要な目標設定となりました。同年9月にその目標となるDX宣言を全社員に向けて発信したこと、それが全社へのいわば号令となりました。
2022年当時のプロジェクト体制
DX初年度の事例:なぜ「間接部門」から始めたのか
DXと聞くと、まずは製造ラインにロボットを導入することのファクトリーオートメーション(自動化:FA)をイメージされるかもしれません。しかし、私たちはあえて抵抗感の強いと想定される製造現場を避け、総務、経理、営業事務などの「間接部門(バックオフィス)」から着手する「スモールスタート」を選択しました。
現場の心理的ハードルへの配慮
製造現場の技術者にとって、長年培ってきた技能をデジタル化することには、少なからず不安や抵抗が伴います。そこで、まずはペーパーレス化や定型的な入力作業など、効果が数値として現れやすく、定量的な目標設定がしやすいバックオフィス業務から成功事例を作ることにしたのです。事務所も現場。紙が多い職場であり属人化でデータが隔離されている部分も多かったのが当時の印象です。
アジャイル方式による試行錯誤
最初から大規模な基幹システムを構築するのではなく、小規模な自動化から試行錯誤を繰り返す「アジャイル方式」を採用しました。外部のシステム会社に丸投げするのではなく、各部署からデジタルに明るい担当者を選抜し、自分たちの手で自分たちの業務を改善する。この「手作り感」が、後の全社展開への大きな足掛かりとなりました。
デジタル化の前に不可欠な「事前の棚卸し」
「新しいシステムを導入すれば、すべてが解決する」 そう思われがちですが、実態は異なります。私たちはシステムを入れる前に、まず自分たちの業務を徹底的に見つめ直す「事前の棚卸し」を最優先しました。ここがTPS(トヨタ生産方式)を土台とする当社のDXの本質であり、デジタル化より先に改善活動を行う「Jマテ生産方式」では改善ありきの活動です。そこにデジタルを含めて考える手法としました。
デジタル(RPA)は、あくまで正しく整えられたプロセスを高速化するツールに過ぎません。もし、ムダの多い非効率な業務をそのままデジタル化してしまえば、私たちは「ムダを高速で生み出し続ける」ことになってしまいます。
そのため、まずは業務の現状を「見える化」し、何が本来の仕事で、何が付随的な作業(ムダ)なのかを徹底的に切り分けました。 この「泥臭い棚卸し」こそが、後の爆発的な成果を生むことになります。
続く後編では、その具体的な成果として、営業部署の「42工程」もの複雑な業務をいかにして「9工程」まで削ぎ落としたのか。そして2026年現在の進展について詳しくご紹介します。