記事公開日
現場の「カン・コツ」を次世代へ!アナログ改善と生成AIで挑む技術伝承(前編)

はじめに
皆さん、こんにちは。今日は、製造現場での改善に取り組んでいる皆さんに、当社の現場で実際に起こった課題と、その解決に向けた道のりをぜひ共有したいと思い、この記事を書いています。
私たちの製造現場では、長年会社を支えているベテランの技術を、いかにして若い世代や海外から来てくれる技能実習生たちに伝えていくかという大きな課題に直面についての内容となります。特に、当社クビキ工場では、外国人実習生への技術指導において「言葉の壁」が立ちはだかり、指導に多くの時間を割きながらも、なかなか作業の意図が伝わらないという悩みがありました。
そこで私たちが取り組んだのが、アナログな現場の改善と、最新の生成AIを活用した動画マニュアルの内製化です。本記事では、私たちがどのようにして職人の「カン・コツ」と呼ばれる暗黙知を紐解き、マニュアル作成の時間を大幅に削減したのかをお話しします。前編となる今回は、デジタルを活用する前段階である泥臭いかもしれませんが重要な「現場の改善」を中心にご紹介します。
なぜ技術伝承が進まないのか?(背景)
製造業の現場において、品質や生産スピードを支えているのは、間違いなく熟練したベテラン作業者の存在です。彼らや彼女たちの作業には、長年の経験に基づく独自のノウハウが詰まっています。これは改善担当としても誇らしい内容で、工場見学の際にも自慢しているポイントです。しかし、その技術は「五感」に頼る部分が大きく、「機械に異音、高音になったら、何かがあるかも。機械を止めよう」「このくらいの力加減で段取りをする」といった感覚的なものであるため、言葉で明確に説明するのが非常に難しいという問題がありました。
さらに、Jマテ.カッパープロダクツ クビキ工場では、インドネシアなどから多くの外国人実習生を受け入れています。彼らに作業を教えようにも、製造業特有の専門用語が伝わらない、直訳しても微妙なニュアンスが通じないといった言語の壁が大きく立ちはだかっていました。
従来は、先輩社員が実習生の横について覚えることが必要、そのため最初は付きっきりになり、身振り手振りで指導を行っていました。また、少しでも分かりやすくしようと紙の手順書を作ろうとすれば、現場の写真を撮ってパソコンに取り込み、文章を考え、レイアウトを整えるのに膨大な時間がかかります。マニュアル作成や日々の指導に追われ、現場の指導者の負担は大きく、実際には、実習生の先輩社員が母国語で伝えるという実態でした。
いきなりデジタルに頼らない「事前の棚卸し」(現状分析)
このような状況を打破するために、「最新のデジタルツールや動画作成システムを導入しよう」と考えるのは自然なことです。しかし、私たちはあえてそこからは入りません。ツールを入れる前に、必ずやらなければならないことがあります。
それが、徹底した「事前の棚卸し」そして「現状の見える化」です。
TPS(トヨタ生産方式)の考え方をベースに改善をしている私たちは、業務の現状を正しく把握し、無駄を見つける、排除する(改善)プロセスを何よりも大切にしています。現場の作業をじっくりと観察し、どこで作業者の手が止まっているのか、何が理解を難しくしているのかを洗い出します。
現場を分析する際、私たちは「星取率(ほしとりりつ)」という指標に注目しました。これは、定時内に予定された生産目標をどれだけ達成できたかを示す割合です。星取率が低い場合、それは作業者の怠慢ではなく、作業の進め方や手順の中に「無理・無駄」が潜んでいるサインです。
また、「人工(にんく)」という、その作業にどれだけの労働力が必要かを示す単位を見直し、誰がどの作業にどれだけの時間をかけているのかを客観的に測定します。
ここで若い技術者の皆さんにぜひ注目していただきたいのは、「当たり前のようにやっている日常業務に着目する」ということです。現場で長く働いていると、「昔からこうやっているから」という理由だけで続いている作業がたくさんあります。その中に潜む無駄を見つけ出し、作業の真の目的を問い直すことこそが、改善の第一歩なのです。
暗黙知を「言葉と数字」に落とし込む(改善施策)
現状の棚卸し、見える化が終わった後、私たちが次に取り組むのは、ベテランの頭の中にある「カン・コツ」を要素に分解し、誰もが理解できる形にすることです。
熟練者が「ここが急所だ、必要な部分」と感じているポイントをヒアリングし、感覚的な表現を具体的な数値や基準に変換していきます。たとえば、「適度なスピードで」という表現は「〇秒から〇秒の間で」へ、「少し深めに」は「〇ミリの深さ」へといった具合に、速度、角度、深さ、時間といった客観的な指標に落とし込むことで、職人的な感覚を一つずつ読取、見ていくことで、具体的なルールや数値化、仕組みの改善へと変換しました。
この情報を基に、現場で確認できる「OPL(ワンポイントレッスン)」を作成しました。OPLとは、作業の急所や安全上の注意点など、一つの重要なポイントを写真やイラストを使って1枚の紙に分かりやすくまとめた学習シートです。これは社内での良いポイントで開発提案表彰の一部としても提出により提案ポイントがもらえます。
さらに、外国人実習生に伝えるための工夫も行っています。専門用語は直訳しても伝わりません。そこで、たとえば加工機の「ペンダント操作盤」という言葉を、彼女らにも馴染みのある「リモコン」という言葉に置き換えました。また、「右下のボタンを押す」と文字で書くのではなく、ボタンの場所を赤い色で目立たせたり、大きく拡大した写真を貼ったりと、直感で視覚的にわかる指示へと変更しました。
つまり何が重要なのか。それは、「現場の誰もが同じ解釈ができる状態(標準化)を作る」ということです。この泥臭いアナログな改善の芽を疎かにしてデジタルの上に載せようとしても、現場の実態に合わない「使われないマニュアル」になってしまうのです。
生成AIによる教育資料の大幅な効率化(デジタル活用)
ここまでアナログな改善を行い、作業の標準化ができた段階で、私たちは初めてデジタル技術、つまり「生成AI」の力を借りることにしています。この順番が大切です。
私たちの最終的な目標は、新人が直感的に理解できる「動画マニュアル」を作ることです。しかし、従来の手法でこれらを作成しようとすると、撮影から文字起こし、翻訳、テロップ入れなどを含め、全体工数としては約9000分もの膨大な作業時間が必要になると想定されました。これでは現場の負担が大きすぎます。
しかも、今回はスモールスタートで次にもかなりのボリュームが控えているため既存のマニュアル作成システムは月額のサブスクリプションは月額で改善効果を出し続けない限り費用対効果は生まれません。この考え方を前提にお金のかからないランニングコストを追求したシステムの導入が当社のDXにおける強みです。
そこで、今回は次のような手順でAIを活用しました。 まず、ベテランの工場長が実際の作業を行いながら、そのポイントをスマートフォンに音声にて録音します。次に、その音声データを生成AIに入力して文字起こしを行い、AIに対して「若手や外国人実習生にも分かりやすい、会話調の文章に整理して」と指示を出します。動画も考えましたが、今回はスピード感を重視しました(動画でも同様に作業ができますが容量の問題など保存領域も検討必要です)
AIが整理した文章を確認し、私たちが微修正を加えた後、今度は音声合成ツールを利用して自然な音声ナレーションを作成しました。さらに、同じAIツールを使って整えた日本語の手順をインドネシア語へ瞬時に翻訳し、スライドとすることで、字幕と音声を追加しました。
結果として、全体工数は9000分かかると想定されていたマニュアル作成時間は、わずか1275分へと大幅に短縮されました。約86%もの工数削減です。指導者はゼロから文章を考えたり翻訳に悩んだりする苦労から解放され、出来上がった内容の「技術的な確認と修正」に専念できるようになりました。
成果と私たちの考え方(成果・まとめ)
このアナログな改善と生成AIの掛け合わせにより、Jマテ.カッパープロダクツ クビキ工場では大きな成果が生まれました。
実習生たちは、母国語で解説・翻訳されたスライドにて翻訳された動画マニュアルを見ることで、作業の意図や安全のポイントを深く理解できるようになりました。現場で先輩に何度も同じことを質問する心理的な負担も減り、新人の早期戦力化が実現しています。また、教える側の負担も劇的に軽くなりました。
私たちが今回の取り組みで実感したのは、「ツールを導入して終わり」ではないということです。TPS(トヨタ生産方式)に基づいた「事前の棚卸し」=見える化と「作業の標準化」という確固たる土台があったからこそ、最新の生成AIがその威力を最大限に発揮しました。現場の「カン・コツ」を1つ1つ現場に立って紐解く努力なしに、真のデジタル化は成し得ません。
デジタルはあくまで、私たちがより付加価値の高い仕事をするための1つの「手段」です。現場の課題に真摯に向き合い、日々改善し続ける姿勢を持ち続けることこそが、最も大切なことだと私たちは考えています。
前編では、現場の課題をどのように分析し、アナログな改善からデジタル化へと繋げたのかをお話ししました。続く後編では、作成した動画マニュアルを実際にどのように現場に定着させたのか、そしてそこから得られたさらなる教訓について深掘りしてお伝えします。ぜひお楽しみに。