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Jマテ.カッパープロダクツが挑んだ「組織の壁」の打破【後編】

失敗を「資産」に変え、現場の信頼を築くための組織設計
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Jマテ.カッパープロダクツが挑んだ「組織の壁」の打破【前編】 | 銅合金辞典
前編では、私たちが大切にしている「JPS(Jマテ生産方式)」の考え方と、アナログな改善を積み上げた先にデジタルがあるという順序についてお話ししました。続く後編では、その変革を支える「組織」と「風土」にスポットを当てます。
「なぜITの専門部署ではなく、生産管理部がリーダーを担ったのか?」「現場の意見に対してどう乗り越えたのか?」
良い内容だけではない、Jマテ.カッパープロダクツにおける変革の舞台裏を、自社の取り組みとして振り返ります。
始まりは「理想の形」ではなく「二度の危機」
私たちがデジタル活用に本腰を入れたきっかけは、決して華やかなスタートではありません。それは、2020年のコロナ禍、そして2021年1月に起きた記録的な大雪という、二度の大きな危機です。コロナ禍は世界的な内容なので省略しますが、特に新潟にあるJマテ.カッパープロダクツにとって、2021年の大雪による3日間の操業停止は衝撃があるものでした。逆にコロナ禍だった経験からテレワークをいち早く導入していたので、お客様に迷惑をかけない対応ができたとも言えます。これが成功体験となり、雪で物理的に足が止まっても、工場の稼働状況の把握も、お客様への連絡も、事務処理も完全に停止せずに進められたことが最も印象的でした。
この経験から、私たちは「今のままの働き方では、いずれ立ち行かなくなる」と痛感しました。既に地方で始まっている、将来的な労働人口の減少、人材が集まらない現実、かつ従業員の休日を増やしながら生産能力を維持していかなければならない。この「地方における危機感」が経営のDXに向き合うスタート地点となりました。今後訪れる状態をいち早く打破し軌道にのせる、DXの変革を実現するためには、場所や紙に縛られない仕組み作りが課題となったのです。
事前の棚卸し:DX認定への挑戦で見えた「自社の弱点」
改革の指標として、私たちは経済産業省が定める「DX認定」の取得を目指しました。しかし、その道のりは苦難の連続でした。
初回申請時は、IPA(情報処理推進機構)から3回も書類の不備を指摘されました。2024年の更新時にも、再び3回の不備を経験しています。しかし、私たちはこれを「単なる事務的なミス」とは捉えません。
指摘された内容は、「経営ビジョンが全社に共有されているか?」「人材育成の具体的な計画はあるか?」といった、組織の根幹に関わるものばかりであり、決めるべきものを決める。この認定審査の過程は、私たちにとっての「事前の棚卸し(現状分析)」見直し事項となりました。不備に対し、一つひとつ修正を整え、組織に足りないところを直すことで、ツールを導入するための「組織としての土台」が固まっていきました。
私たちの根幹にはDXに対し基礎・基本に基づき、着実に固めていったというDX-readyへの自負があります。
組織の設計:なぜ「生産管理部」が旗をふったのか
一般的に、デジタル化の推進はIT部門が主導することが多いでしょう。しかし、当社ではあえて、実務を担う生産管理部をプロジェクトの先頭に立ちました。これには、製造現場を俯瞰して見れる部署だからこその明確な理由があります。
生産管理部は、営業・製造・物流のすべての部署と関わり、常に情報の板挟みになる「社内で最も大変な部署」の一つです。
- 営業からの急なオーダー変更への対応
- 製造現場でのトラブルによる進捗停滞の調整
- 物流遅延に伴う出荷管理
あらゆる「現場の苦労」や「情報の断片化」を最も肌で感じているのは生産管理部です。全体を俯瞰し、日々の調整を行っている彼らこそが、どこをどう変えれば「全体最適」になるかを一番よく分かっていました。
推進リーダーに選ばれたのは、ITの専門家ではなく、過去に基幹システムの外注化=「丸投げ」で苦い失敗を経験した現場出身の社員でした。この「現場の苦労を知っている」という要素が、外部のITベンダーと工場の現場を繋ぐ橋渡しとして、極めて重要な役割を果たしました。
ここで皆さんに伝えたいのは、「DXは技術の問題ではなく、人と仕事の流れ=仕組みの問題である」ということです。現場の「人工(にんく:1人が1日に行う作業量)」や「残業時間」の実態を知らずして、良い仕組みは作れません。
現場を「自分事」に変えるための工夫
社長のトップダウンでプロジェクトが始まった当初、現場からは当然のように意見が多数上がりました。「ただでさえ忙しいのに、余計な手間を増やさないでほしい」「自分たちの仕事が奪われるのではないか」という不安です。
私たちは、この心理的な障壁を取り除くために、以下の「アナログな内容」を徹底しました。
ツールの擬人化で安心感を
一例にあげると、自動化ツール(RPA)を導入する際、単なるシステムとしてではなく、カッパのキャラクターを用いた「新しい仲間」として紹介しました。面倒な定型業務を代わりにやってくれる助っ人という立ち位置を明確にすることで、現場の不安を少しずつ解いていきました。自分たちにメリットがある。そういった部分としてダブルチェックなどが良い例です。ミスをチェックしている方にも、入力、審査、承認とISOのフローで行っていると3名に少なくとも負荷がかかっています。その負荷の1名をシステムが自動入力したい、そういった想いから始めた、といったイメージです。
「仕組み」を責め、「個人」を責めない
これがTPS(トヨタ生産方式)の最も重要な精神です。非効率な作業手順やデータの入力漏れを見つけた際、私たちは作業者を責めることはしませんでした。「そんなやり方をさせてしまっている、今の仕組みや管理体制が悪い」つまり管理職である私が悪いと考え、改善内容は常に「仕組み」に向けました。仕組みの悪さを指摘し、ではどうやったら良くなるか、と前向きな内容に転換する思考が大切です。
失敗を許容するスモールスタート
最初から完璧で高価なシステムを導入することは避けました。「まずは月に数千円のツールで試してみよう」「ダメなら元の紙の運用に戻していいから」という安心感のもと、小さく始めてイメージを共有し、成功体験を積ませる手法を採りました。これにより、現場に「自分たちで少しのシステム導入で仕事を少し楽にしていける」という自信が芽生えていったのです。
デジタル活用の現在地:失敗をオープンにする文化
現在、私たちの活動は自社内にとどまらず、地域全体を巻き込んだ取り組みへと広がっています。特に大切にしているのが、「失敗談・苦労話の共有」です。
私たちの会社には年間60社以上の見学者が訪れますが、私たちは成功事例だけでなく、「タブレットを配ったけれど全然使われなかった話」や「認定審査で何度もやり直した話」などを包み隠さずお話ししています。
なぜなら、同じ悩みを持つ製造業・企業の仲間にとって、本当に役立つのは「きれいな成功体験」ではなく「泥臭い失敗からの学びや苦労話の共有」だったからです。この姿勢が企業間での信頼を生み、地元の銀行や教育機関と連携した「地産地消のDX」という新しい仕組みの構築、プラットホームの模索に繋がっています。
デジタルツールの活用により、誰がどの作業を習得しているかを示す「スキルマップ」も可視化され、若手の教育スピードも上がりました。しかし、それ以上に価値があるのは、社員一人ひとりが「改善」を自分事として捉え始めたという、組織風土の変化が改善活動を進めているもっともよかった理由です。
結びに:改善に「終わり」はない
Jマテ.カッパープロダクツにおける一連の取り組みを振り返ると、その中心にあるのは常に「TPS(トヨタ生産方式)の考え方」でした。
デジタル技術は、あくまで「現場のムダを発見し改善することで、人を活かす」ための道具の一つに過ぎません。システムという道具を使いこなすためには、まず現場を整理し、標準化し、何より「人を大切にする仕組み」を作ることが先決です。
「ツールを導入して終わり」というDXは、どこかで必ず行き詰まります。大切なのは、現場の声に耳を傾け、失敗を恐れずに改善を積み重ねていく姿勢そのものです。私たちはこれからも、この「泥臭い改善活動」を止めず、次世代に繋がる強い現場を作り続けてまいります。
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