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1,000時間の削減という目標から始まった「活人化」の原点 —— 現場とデジタルが融合する次世代のモノづくり(後編)

はじめに
前編では、2022年に当社の山本が社長に就任した際、将来の労働力不足への強い危機感から「年間1,000時間の工数削減」という高い目標を掲げ、あえて間接部門からDXをスタートさせた背景をお話ししました。
後編では、その具体的な改善プロセスと、単なるツール導入に留まらない「組織の変革」、そして2026年現在、累計5,915時間の稼働を達成した私たちの「今」について詳しくレポートします。

プロジェクト改善効果推移(イメ―ジ)
振り返り
前編では、私たちがなぜ「攻めの改善」に踏み切ったのかを紐解きました。 2050年に生産年齢人口が3割減少するという未来を前に、現状維持は後退と同じです。そこで2022年、経営トップの覚悟を示す「DX認定」の早期取得と「1,000時間の余力創出」を宣言。まずは抵抗感の少ない間接部門で、自分たちの手で業務を自動化する「アジャイル方式」のスモールスタートを切りました。
42工程を9工程へ削減した最初の大きなデジタル化
その象徴的な事例が、受注業務の改善です。
営業部門の受注プロセスをフロー図に落とし込んでみたところ、紙媒体やFAX、目視確認、そして二重入力といった作業が複雑に絡み合い、実に「42」もの工程が「クモの巣」のように網目上にルールが存在していたことが判明しました。
もし、この複雑な状態のままRPA(ロボットによる自動化)を導入していたら、エラーを自動で量産するだけの「デジタル化の失敗」を招いていたでしょう。私たちはまず、業務を「基本のルーティン」と「イレギュラーな対応」に徹底的に分別しました。
顧客を巻き込んだルールの再構築
分析を進めると、イレギュラーが発生する原因の多くは、顧客との間で「単価入力のルール」などが曖昧なまま、現場の担当者が個別に判断(暗黙知による処理)を繰り返していたことにありました。
私たちは顧客に対しても誠実にアプローチし、問題点を共有して、一緒にルールを再定義・標準化しました。この「アナログな改善」によって、42あった工程はデジタルを導入する前の段階で「9」工程まで整理されたのです。「標準作業のないところに改善はない」というTPSの基本原則を、身をもって改善担当が全員で1つの改善テーマについて活動する。後からデジタルを導入することの重要さを証明した事例となりました。
当時の改善発表資料
組織変革:現場主導で進める「ニンベンのついた自働化」
デジタルツールは、使い手がその価値を信じていなければ定着しません。私たちは現場が抱えていたシステムに対する不安を払拭するため、独自の組織変革を行いました。
Jマテロボカッパーの誕生
RPAの導入にあたっては、ロボットを「仕事を奪う脅威」ではなく「面倒な作業を代わりにやってくれる心強い仲間」として迎え入れる工夫をしました。私たちはRPAを「Jマテロボカッパー」というキャラクターとして擬人化し、親しみを持てるようにしたのです。
さらに、社内グループウェアでその稼働状況や年間の削減時間をリアルタイムで共有しました。効果を「見える化」することで、次第に「もっとロボカッパーにこれを任せたい」という前向きな声が上がるようになりました。
成功体験の共有と意識変革
小集団活動で作り上げたRPAの成果を「改善研究発表会」などにて定期で積極的に共有しました。一部の部署だけの取り組みにするのではなく、全社的な取り組みに昇華させたのです。これにより、当初の「やらされ感」は薄らぎ、自分たちの仕事を自分たちで楽にする、というボトムアップ型の改善意識が芽生え始めました。
改善効果:初年度の達成とDX認定の取得
2022年から始まった一連の取組は、驚くべきスピードで成果を上げました。
目標の超過達成
初年度の目標であった年間1,000時間の削減に対し、実績は累計1,508時間の業務効率化を実現しました。この成果は、中小企業庁の「2023年版小規模企業白書」にも掲載され、当社の取り組みが全国的にも注目されるきっかけとなりました。
上越地域初のDX認定取得
RPAによる大幅な工数削減実績と、経営層からのトップダウンによる方針の明確化が評価され、2022年12月には新潟県内で4例目、上越地域では初となる「DX認定事業者」に認定されました。これにより、私たちは「デジタルとアナログの融合」という進むべき道に自ら方向性を決め、改善を行い2024年にはDXセレクションの優良事例を得ることができました。まさに、成功体験を積み重ねていった事例となります。
DXセレクション2024優良事例から地域に向けてのDX宣言へ
2026年現在:さらなる改善を続ける私たちのDX
そして、プロジェクト始動から4年が経過した2026年現在。私たちのDXは、もはや一部のプロジェクトではなく、会社の「文化」として定着しています。
RPA稼働5,915時間への拡大
2026年3月末現在のRPA(Jマテロボカッパー)の稼働実績は、累計5,915時間にまで達しています。当初の間接部門での定型作業から始まった活用範囲は、今や製造現場のデータ管理やポカミス防止(ダブルチェック)、外部・社内システム間の複雑なデータ連携など、大小200台以上のロボットが活躍する規模へと拡大しました。
経営幹部が直接参画する組織体制へ
発足当初は各部署から選抜された担当者が中心のプロジェクトでしたが、現在は組織体制がさらに強化されています。取締役や部長などの経営幹部が自らプロジェクトメンバーとして参画し、経営戦略と現場の改善がより密接にリンクする体制へと進化しました。
月1回の「DX推進会議」によるボトムアップの加速
現在は、月1回のペースで「DX推進会議」を開催しています。この会議は、単なる進捗報告の場ではありません。各現場の担当者が自ら1ヶ月の取り組み内容や工夫した点を発表し、他部署へ横展開するための「DXを知る共有の場」となっています。
経営層が直接現場の発表を聞き、その場でフィードバックを行うことで、ボトムアップの提案が即座に実行に移される、共有されるスピード感が生まれています。
「活人化」の具体的な進展
RPAによって創出された膨大な時間は、決して人員削減(少人化)には充てていません。
- データ分析による意思決定: これまで集計作業に追われていた時間を、生産管理データや品質データの高度な分析に充てる。
- 技術伝承の加速: 生成AIや動画を活用し、熟練技能者の「カン・コツ」を若手へ伝える教育資料の作成に時間を割く。
- ウェルビーイングの向上: 休みやすい職場環境の整備や、創造的な仕事への配置転換。
- 新しいデジタル化への挑戦:2025年12月よりマーケティング活動やブログ、メルマガの展開と新規顧客の創出や外部との接点を増やしています。
このように、デジタルで生み出した時間を「人間にしかできない価値」へと投資することで、企業の持続的な成長を実現しています。
まとめ:改善し続ける文化・精神こそが、最大の資産
私たちの改善を支えているのは、最新のDX、デジタルのITツールではありません。
振り返ってみれば、私たちが成功の鍵だと確信している部分は、その前段階で行った「徹底的な業務の棚卸し」と「TPSの教えに基づいたムダの排除」です。今でも定着しないデジタルツールなども実際にはあり、上手くっている部分や上手くいっていない部分、プロジェクトの濃淡もあります。
「改善はアナログな部分が土台であり、デジタルはその1つの手段である」
この優先順位を間違えないことが、製造現場におけるDXの本質ではないでしょうか。標準のないところに、デジタルを載せても成功はありません。まずは、見える化。アナログで徹底的に磨き上げた業務プロセスに、デジタルの力を掛け合わせることで初めて、生産性向上が生まれるのです。
若手技術者の皆さん、そして共にモノづくりの未来を創る経営層の皆さん。
まずは目の前の業務を一歩立ち止まって、棚卸しすることから始めてみませんか。
その「泥臭い一歩」こそが、デジタルの力を真に引き出し、2050年の未来を切り拓く最強の武器になるはずです。
Jマテ.カッパープロダクツは、これからも改善の足を止めることなく、地域とモノづくりの未来に貢献してまいります。