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現場の「カン・コツ」を次世代へ!アナログ改善と生成AIで挑む技術伝承(後編・裏側)

はじめに
皆さん、こんにちは。Jマテ.カッパープロダクツのDX推進リーダーです。
前編では、私たちがデジタル技術を導入する前段階として、いかに泥臭く現場の課題を洗い出し、アナログな改善を積み重ねてきたかをお伝えしました。
後編となる今回は、Jマテ.カッパープロダクツ クビキ工場において、標準化した作業をどのように「生成AI」と「動画マニュアル」へ落とし込み、現場に定着させたのか、その具体的なステップと成果について詳しく解説します。
デジタル化はあくまで改善「手段」です。しかし、その手段を正しく動かすためには、現場に根付いたTPS(トヨタ生産方式)の考え方も必要です。少しだけ改善の話も交えつつ事例を紹介します。
デジタルの成否を分ける「事前の棚卸し」と現状把握
新しいツールを導入する際、私が最も警戒したのは「システムを導入すること自体が目的になってしまうこと」でした。高価なシステムを入れても、現場の動きと乖離していれば、それはただの「無駄」になってしまいます。※実際にそのようなツールとなってしまったシステムもあり解約した経緯もあります。
そのため、デジタル化の前に徹底した「現状分析」と「事前の棚卸し」見える化を実施しました。
※前編参照
今回は具体的な改善の一部を特別に紹介します。クビキ工場では、まず課ごと全社員に対して業務内容の洗い出しを行いました。1時間ごと、半日ごと、あるいは1ヶ月に1回といった頻度で、どのような作業を行っているのか。その中にある「定常作業(ルーティン)」と「非定常作業(イレギュラー)」を明確に区別することから始めたのです。
ここで皆さんに意識してほしいのは、「人工(にんく)」という考え方です。
人工とは、その作業を完了させるために必要な労働量の単位です。私たちは、今いる人員構成の中で、いかに少ない人工で高い生産性を維持できるかを考えました。人は休みになると1人減りますが仕事は0.7人工といった書き方で分析を行っています。
今のご時世では、休むことはワークライフバランスを整えるうえで必須です。現状を否定するのではなく、今の仕組みの中に潜む「無理・無駄・ムラ」を可視化することが、ウェルビーイングにつながると考え、その手段としてデジタル活用は必要、そのためのスタートラインになるという考え方です。
アナログ改善の真髄:職人の感覚を「数値」に変える
動画マニュアルを作る際、単に作業風景を撮影するだけでは、ベテランの「勘とコツ」は伝わりません。動画は「見る」ものですが、現場で求められるのは「できる」ようになることです。作業を撮影されている方は多いのではないでしょうか?
私たちは、熟練者が五感で捉えている曖昧な表現を、徹底的に言語化・数値化しました。
- 「いい感じの温度で」 → 「XX℃からXX℃の範囲内で」
- 「ゆっくりと傾ける」 → 「〇秒かけて〇度の角度まで」
- 「音に注意して」 → 「金属的な高い音が連続して聞こえたら…〇〇」
このように、角度、温度、振動などといった要素を言葉や図、絵に置き換える作業を行いました。これこそが、Jマテ.カッパープロダクツが大切にしている「技術継承」のプロセスです。定性を定量に変えていく作業です。
この標準化された情報は、紙の「OPL(ワンポイントレッスン)」にて保管しています。OPLとは、一つの改善や作業の急所を1枚の資料にまとめたものです。1枚にこだわって、すべてをこの「紙で説明できる」という土台があって初めて、デジタルの活用が意味を持ちます。
外国人実習生への「タスクシフト」と教育改革
クビキ工場では、インドネシアなどからの外国人技能実習生が一般社員と同じ戦力での業務となっています。しかし、日本語の指示書だけでは「なぜその作業が必要なのか」という本質的な理解=理屈が浸透しにくいという課題がありました。
そこで私たちが取り組んだのが、医療業界の考え方を応用した「製造のタスクシフト」です。
これは、管理職の仕事を職制へ、職制の仕事を一般職、一般職の仕事はRPAやデジタル化、AIエージェント化へと移譲し、業務の難易度を下げて「誰でも応援ができる」状態を作ることです。このタスクシフトを加速させるために、多言語対応の動画マニュアルが必要でした。
これは実習生だけにとどまらず、現場のリーダーは、自分たちが日常的に使っている専門用語が、実は新人社員に伝わっていないことに気づきました。たとえば、「チャックを確認して」という指示も、初心者には「チャックをどう見ればいいのか」が分かりません。
※ちなみにここでいう「チャック」とは、機械加工で材料や製品を固定するための保持具のことを指します。
旋盤や加工機では、ワークが正しい位置でしっかり固定されていないと、加工寸法のズレ、傷、振れ、最悪の場合はワークの飛び出しにつながります。
このような内容を具体的にを解決するために、「右下の青いレバーを引く」「画面に『OK』と表示されるまで待つ」といった、具体的で迷いのない動作での作業の標準を示す必要がありました。
生成AIを武器にする:作成工数削減のための施策、その裏側
作業が標準化され、教えるべき「作業手順」が決まった段階で、いよいよ生成AIの出番です。
従来、動画マニュアルを作成するには、スマホ撮影、動画編集、字幕追加、ナレーション文書作成、翻訳、ナレーター変換といった工程に多大な時間を要していました。5分程度の動画を作るのに、約4時間(240分)かかることも珍しくありませんでした。
私たちは、このプロセスにAmazon Web Services(AWS)の音声文字起こし機能や、Googleの生成AIツール(NotebookLM等)を活用しました。
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制作工程 |
従来の手法 |
生成AI・デジタル活用後の手法 |
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原稿作成 |
撮影後に手書きメモから作成 |
現場の音声を自動文字起こし・要約 |
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ナレーション |
指導者が録音(録り直しが多い) |
AIによる日本語自動音声合成(Amazon Polly等) |
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多言語翻訳 |
翻訳担当者への依頼・調整 |
AIによる即時翻訳(インドネシア語等) |
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総制作時間 |
約4時間 / 本 |
約1時間30分 / 本 |
特に効果的だったのは、AIによる翻訳と音声合成です。 日本語の標準手順を、ボタン一つで自然なインドネシア語のナレーションへ変換しました。これにより、実習生は「母国語」で安全の急所や作業のコツを学ぶことができ、理解度が飛躍的に向上しました。日本語の定型文(「指差し呼称、ヨシ!」など)の表面的な発声にとどまらず、「なぜこの箇所を確認するのか」という安全意識の本質を共有できるようになったのです。
1点まだ改善の余地があるのは、AmazonPollyがインドネシア語対応出来ていないという点です。そのため他のソリューションや翻訳できる方法などさらなる改善にむけて色々試しているのも現状苦労している内容です(2026.4月時点)AIの飛躍はすさまじいので翻訳分野はさらに使い勝手がよくなるようアンテナを張っています。
活人化:生み出した時間を「さらなる改善」へ
今回の取り組みの結果、クビキ工場の教育用翻訳資料をはじめ社内では2025年で178種類以上の動画マニュアルが整備されました。 特に効果が顕著だったのは、クビキ工場の朝の自動機立ち上げ作業です。以前は熟練者に依存していたため、立ち上げが遅れて生産ロスが発生することもありましたが、動画マニュアルによる「誰でも立ち上げられる化」を進めたことで、定時内完了率(星取率)が52%から96%へと劇的に改善しました。突発での予期せぬお休みの時にも代わりの方が最低限手順を見て作業をすることが可能です。
ここで重要なのは、私たちが目指しているのは「省人化(人を減らすこと)」ではなく、「活人化(かつじんか)」であるということです。何かあった場合の休みであっても他の方がカバーできる体制づくりをした結果となります。
デジタル化やRPAによってルーティン業務を自動化し、その工数・時間を捻出する。その浮いた時間は、人を減らすために使うのではなく、「より付加価値の高い仕事」に充てるべき、との社長の号令のもと進めています。
- ベテランは、次世代の教育や新しい技術の検討に。
- 若手は、現場の無駄をさらに見つけるためのデータ分析や改善活動に。
Jマテ.カッパープロダクツでは、捻出した時間を発表する場として、2ヶ月に1回の「改善研究発表会」を行っています。現場の社員が自らの成功体験を誇らしげに語る改善の姿こそが、私たちの目指す「ウェルビーイング(働きがい)」の形です。 デジタルは月1回のDX推進会議で報告を行い各部署へ周知をしております。デジタルの導入に留まらない改善活動の姿が当社にはあります。
まとめ:改善の土台の上に、デジタルが定着していく
Jマテ.カッパープロダクツのDXは、決して華やかなものではありません。
その裏側は、TPS(トヨタ生産方式)を10年以上おこなっている改善活動と、長い歴史を持つ「アナログな改善」を、現代の「デジタル技術」で1つの手段として進めているデジタルの改善活動の組み合せです。
「標準作業のないところに改善はない」という指導の言葉の通り、まずは現場を整え、見える化し、ルールを決め、決めたことは守る、そしてそのプロセスをより楽にするためにツール(システム)を使う。この順番を間違えなければ、デジタルは必ず定着すると信じています。
システムを導入して終わりではありません。現場の状況は刻一刻と変わります。陳腐化も早いです。
私たちはこれからも、「まずやってみる!」というスピード感を大切にしながら、現場の皆さんと共に改善を進めていきます。
私たちのDXへの挑戦が、同じ悩みを持つ全国の製造現場の皆さんにとって、一歩を踏み出すヒントになれば幸いです。 共に、ものづくりを盛り上げていきましょう。