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クビキ工場、現場DXの取り組み実例|なぜ導入工数のうち、8割をアナログな準備だったのか

はじめに
製造現場で汗を流している皆さんは、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉にどのようなイメージを持っているでしょうか。
「最新のシステムを導入すれば、すごく仕事が楽になる」……もしそう考えているとしたら、その取り組みは途中で立ち止まってしまうかもしれません。私たちJマテ.カッパープロダクツ クビキ工場では、ノーコードツール「Platio(プラティオ)」を活用し、加工用チップの在庫管理をデジタル化しました。しかし、このプロジェクトの本質は「アプリを作ったこと」ではありません。
その導入の前にある、泥臭く、アナログな「現場の仕組みづくり」にこそ、成功の鍵がありました。今回は、私たちがTPS(トヨタ生産方式)の考え方をベースに、改善とデジタルを融合したJマテ生産方式(JPS)をどのように現場の「困りごと」を解決したのか。その軌跡を、現場に導入した当事者の視点から詳しくご紹介します。
クビキ工場
2S巡視で見えてきた「管理のムダ」というボトルネック
すべての始まりは、経営層や経営企画部門による「2S(整理・整頓)巡視」でした。現場の隅々まで目を配り、あるべき姿と現状のギャップを洗い出すこの活動は、主に現場の決めたことを守れているか?崩れていないかという部分に重点がおかれます。その中で、一つの大きな課題が指摘事項に上がりました。それが、加工に欠かせない「刃物のチップ」の在庫管理でした。
当時は、入庫した後のチップがどのように使われ、今いくつ残っているのかを誰も正確に把握できていませんでした。発注のタイミングは、担当者の「そろそろ無くなりそうだ」という主観的な感覚、つまり「暗黙知」に頼り切っていたのです。
これでは、急な欠品で刃物が足りない、ラインを止めてしまうリスクがある一方で、不安から過剰な在庫を抱え込んでしまうという「管理のムダ」が生じます。社内にはExcelやマクロを駆使する文化が根強くありましたが、現場の慌ただしい作業の中でわざわざパソコンを開き、数値を入力するのは現実的ではありません。
「現場が本当に使いやすく、かつ誰でも正常・異常がひと目で分かる仕組みを作らなければならない」。この強い危機感が、私たちの背中を押しました。
デジタル化の前に、まず「現地現物」で土台を整える
私たちが最も大切にしている教訓の一つに、「標準作業のないところに改善はない」という言葉があります。ルールが曖昧なままデジタルを導入しても、現場の混乱を助長するだけです。イメージとしては出来るだけ工数はプラマイゼロの作業が求められます。
そこで私たちは、アプリを作る時間の何倍もの労力を、アナログな準備に費やしました。具体的には、今回の仕組み構築に要した全38工時間のうち、約8割をこの「運用準備」に充てました。実はシステム製作は2割くらいの時間しかかかっていません。
まず取り組んだのは、物理的な「定位置管理」の徹底です。
現場の動線を考慮し、ダンボールで仕切りを作った専用の棚を自作しました。約180種類にも及ぶチップの一つひとつに、帰る場所(住所・番地)を決めたのです。
次に、当時の工場長が自らが現場に立ち、11時間という時間をかけて現物を1個ずつ数え上げる「棚卸し」を実施しました。机上のデータではなく、目の前にある「物」から真実を掴む。まさにTPSの基本である「現地現物」の精神です。この作業によって初めて、誰が見ても間違いない「在庫マスターデータ」という信頼の土台が完成しました。工場長が行う事で、現場で肌感覚の刃物チップのサイクルや本当にこれは必要なのか?なども本人が行うことで整理整頓を実施しました。
さらに、棚の各スペースにはQRコードを印字した管理カードを配置しました。これにより、「どのチップを、どこから持ち出したか」が視覚的に誰でも分かる「目で見る管理」の土台が整ったのです。
つまり、デジタル化する前に「デジタルに頼らなくても回る状態」をアナログで作ること。これが、現場にシステムを定着させるための絶対条件と考えています。
デジタルよりもこの泥臭い改善活動と標準作りがこのブログで一番大事な点です。
現場を楽にする「自働化」としてのデジタル活用
アナログな土台が固まって初めて、デジタルの出番です。導入したのは、プログラミング不要でアプリが作れるノーコードツールでした。
ここでこだわったのは、現場の作業員の手を止めない「操作性」です。
アプリの設計は、ログイン後に社員コードをバーコードで読み込み、棚のQRコードをスキャンして数量を入れるだけ。わずか「6タッチ・15秒」で入力が完了します。
これは、単なる「自動化」ではありません。人の作業を機械が助け、異常があればすぐに気づけるようにする「ニンベンのついた自働化」の考え方に基づいています。これまで「チップが足りないかもしれない」と不安に感じながら行っていた確認作業や、煩わしい台帳記入という「付随作業」をデジタルで削ぎ落としたのです。
の皆さんにはぜひ知っておいてほしいのですが、デジタルはあくまで「道具」です。道具を使いこなすためには、その前に「どう使えば作業が楽になるか」という、人間による知恵出し(改善)が不可欠なのです。私たちはカイゼンを通して現場の把握を行い、ルールを作り、守れているかをシンプルに考え、最後にシステム導入をしています。
目指すべきは「省人化」ではなく「活人化」
今回の取り組みによって、180種類のチップの在庫状況はリアルタイムで可視化されるようになりました。属人的な管理から脱却し、誰でもルール通りに運用できる「標準化」が達成されたのです。また、システムの機能で「検知」という下限を切ったらメールで通知がくる機能や、週1回週報として刃物の在庫状況をRPAで配信しています。
しかし、私たちのゴールは「在庫を管理すること」そのものではありません。アクションは人が行い、判断の補助としてデータを配信しています。
本当の目的は、この改善によって生み出された「時間」と「心のゆとり」を、より付加価値の高い仕事へ向けることにあります。
TPSでは、単に人を減らす「省人化」ではなく、浮いた工数を品質向上や技術伝承、あるいは新しい改善活動へと振り向けることを「活人化(かつじんか)」と呼びます。
担当者が「チップの数を心配する時間」を、「より良い加工方法を考える時間」に変える。他の現場を見る活動に視点を切り替える。
あるいは、一人が一日にこなす作業量(人工:にんく)を適正化し、誰もが無理なく、計画通りに生産を進められる「星取率(定時内での生産目標達成率)」の高い現場を作る。これこそが、製造業が目指すべきDXの姿だと私たちは信じていす。
工場見学でも1番力を入れている事例です
まとめ:改善という考え方、デジタル化は最後に…
「Platio」を使った在庫管理アプリの導入は、小さな一歩かもしれません。しかし、現場から「これは便利だ」「自分の部署でも使いたい」という声が上がり始めたことは、私たちの大きな自信となりました。システムを導入する立場としては【定着】したことに意義があります。
ツールを入れて終わり、ではありません。現場の状況は刻一刻と変わります。使いにくい点があれば、その都度アプリを修正し、棚の配置を見直す。下限を検知する。この「改善を止めない姿勢」こそが、Jマテ.カッパープロダクツの強みです。
これからも私たちは、アナログな現場力を大切にしながら、デジタルという新しい力を柔軟に取り入れ、誰もが働きがいを感じられる「休みやすく、成長できる職場」を築いていきます。
皆さんも、まずは目の前の「2S」から、自分たちの現場を楽にする一歩を踏み出してみませんか。
DXについて
DX事例・工場見学|地産地消のDXで地域共創を牽引する【Jマテ】
Asteria プレスリリース
https://jp.asteria.com/news/2024110120301/
導入している「Platio」について
( Webサイト https://plat.io/ )