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銅合金の「硬さ」と「伸び」のトレードオフ──材質選定で失敗しないための評価指標
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銅合金の「硬さ」と「伸び」の反比例の関係──材質選定で失敗しないための評価指標
銅合金の設計や材料選定を行う際に、カタログのスペックで必ずと言っていいほど目にするのが「硬さ」と「伸び」の数値です。これらは単なるスペック上の数字ではなく、その材料が現場でどのように振る舞い、どのような「壊れ方」をするかを決める決定的な要因となります。
今回は、知っているようで意外と深い「硬さ」と「伸び」の相関関係と、現場で役立つ材質ごとの個性を整理して解説します。
1. 銅合金における「硬さ」の定義と測定指標
金属材料の硬さは、外部からの力による「変形に対する抵抗の大きさ」を表します。銅合金の世界では、製品の形(鋳造品か、板や棒などの伸銅品か)によって、採用される測定方法が異なります。
鋳造品で使われる「ブリネル硬さ(HBW)」
主にCAC材(鋳物)の評価に用いられます。直径10mmなどの比較的大きな球体を押し付けるため、鋳物特有の微細な組織のムラを平均化して測定できるのがメリットです。材料の硬さに応じて、500kgfから3000kgfの間で荷重を調整して測定します。
伸銅品で使われる「ビッカース硬さ(HV)」
圧延された板や引き抜かれた棒材などで一般的に用いられています。
その他の指標と「換算」の注意点
非常に小さな部品や表面処理層には「ビッカース硬さ(HV)」が使われます。ここで意識しておきたいのは、「異なる指標間の換算値はあくまで目安」という点です。HBWからHRCなどへ計算で直すことはできますが、材料が違えば弾性の性質も異なるため、厳密な比較には同じ指標を用いるのが基本です。
2. 「伸び」が示すのは、材料の「粘り強さ(靱性)」
「伸び」とは、引張試験において試験片がちぎれる(破断する)までに、元の長さからどれだけ伸びたかをパーセンテージ(%)で示したものです。
現場での見方:変形してから壊れるか、突然壊れるか
- 伸びが大きい材料: 強い衝撃を受けても、まずは「変形」することでエネルギーを吸収します。つまり、急激にパキンと割れる(脆性破壊)のを防いでくれる「粘り強さ(靱性)」があると言えます。
- 設計上の役割: 予期せぬ負荷がかかった際、「壊れる前に形が歪むことで異常を知らせてくれる」のが伸びのある材料の強みです。
3. 硬度と伸びの「反比例関係(トレードオフ)」
材料工学において、硬度・強度と伸びは、切っても切れない「反比例の関係」にあります。
強さを取れば、粘りは失われる
一般的に、硬度が高くなると「引張強さ」や「耐力(永久変形が始まる力)」も向上します。しかし、これに伴い塑性変形の余裕である「伸び」は低下し、材料は「硬くて脆い」性質へと近づきます。
熱処理による変化の例
アルミニウム青銅(C95400/CAC703)を例に見ると、この関係が非常によく分かります。
- 鋳放し状態(熱処理前): 硬さ HB 150 / 伸び 12%
- 熱処理後: 硬さ HB 190(上昇) / 伸び 6%(半減)
このように、熱処理で硬度と強度を高めると、引き換えに粘り(伸び)が半分程度まで落ち込んでしまうのです。
4. 主要な銅合金の系統別特性マップ
各材質は、用途に合わせて「硬さと伸びのバランス」が設計されています。あくまで指標となりますが現場での使い分けの参考にしてください。
① 青銅(CAC406など):バランス型の基準材
- 硬さ:中 / 伸び:中
- 現場での立ち位置: 強度、耐摩耗性、被削性(削りやすさ)のすべてが平均点以上の「優等生」です。特定の性能に特化しているわけではありませんが、大きな欠点もありません。「迷ったらまず青銅」と言われるほど汎用性が高く、継手やバルブなどの量産部品の標準材として長年信頼されています。
② りん青銅(CAC502など):高剛性の特化材
- 硬さ:高い / 伸び:小さい
- 現場での立ち位置: リンを添加することで結晶を強化し、硬さと疲労強度を極限まで高めた材質です。その分、伸び(粘り)は犠牲になっています。一度変形すると元に戻りにくい、あるいは割れやすい性質があるため、「絶対に変形させたくない」精密な摺動部やギア、バネ性を必要とする部品に向いています。
③ アルミ青銅(CAC703など):最強クラスの強度材
- 硬さ:極めて高い / 伸び:中~低い
- 現場での立ち位置: 銅合金の中でトップクラスの強度を誇り、鋼(はがね)に匹敵する硬さを持ちます。海水に対する耐食性も非常に高いのが特徴です。ただし、非常に硬いため切削加工の負荷(抵抗)が大きく、伸びも少ないため、加工性よりも「過酷な環境での耐久性」が最優先される船舶部品などで真価を発揮します。
④ 黄銅(CAC203など):加工性重視の量産材
- 硬さ:低い~中 / 伸び:大きい
- 現場での立ち位置: 非常に大きな「伸び」を持っており、銅合金の中では最も扱いやすい部類に入ります。粘り強いため、曲げ加工などの塑性加工でもトラブルが少なく、コスト面でも有利です。高い硬度や耐摩耗性よりも、「作りやすさ」や「コストパフォーマンス」が求められる電気端子や配管部品に最適です。
⑤ 鉛青銅(CAC603など):摺動(しゅうどう)特化材
- 硬さ:中 / 伸び:小さい
- 現場での立ち位置: 材料の中に鉛が分散しており、それが潤滑剤のような役割を果たします。強度や伸びの数値よりも、「相手材とこすれ合っても焼き付かないこと」を最優先した設計です。高速で回転するベアリングやブッシュなど、過酷な摩擦環境を支える縁の下の力持ちです。
⑥ 鉛フリー青銅(CAC900番台):次世代の環境対応材
- 硬さ:中~高い / 伸び:中
- 現場での立ち位置: 鉛の代わりにビスマスなどを用いることで、環境規制(鉛レス化)に対応した新しい材質です。従来の青銅に近い「削りやすさ」と、鋳物としての「耐圧性」を両立させています。水道関連など、安全性と確かな機械的性質の両方が求められる分野で急速に普及しています。
5. 「削りやすさ(快削性)」がもたらす関係
「快削」と名の付く合金は、鉛(Pb)などを添加することで切り屑を細かく分断し、加工をしやすくしています。しかし、これらの添加元素は金属組織の中でいわば「脆い箇所」として働きます。
そのため、「快削性を高めると、基本的には伸び(粘り)が低下する」という傾向を覚えておく必要があります。加工効率と、部品に求められる靱性のバランスを考えることが重要です。
まとめ:硬さと伸びは「用途設計の結果」
銅合金における硬さと伸びの関係をまとめると、以下のようになります。
- 硬さと伸びはトレードオフ: 片方を高めれば、もう片方が犠牲になるのが基本です。
- 硬い材料(低伸び): 耐摩耗性や剛性を優先したい場合(ベアリング、ギアなど)。
- 伸びる材料(低硬度): 衝撃への強さや加工性を優先したい場合(配管、端子、量産品など)。
現場では、その部品が「摩耗に耐えるべきなのか」、それとも「壊れる前に変形して耐えるべきなのか」を考えることが、最適な材質選定への近道となります。
今回の内容を、図面指示や材料発注の際の「根拠」として、ぜひ活用してみてください。
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