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銅建値はどう決まる?3 ― 「歴史的な相場の転換点」から学ぶ相場観の養い方 ―

銅建値はどう決まる?3 ― 「歴史的な相場の転換点」から学ぶ相場観の養い方 ―
好評をいただいている「銅建値はどう決まる?」シリーズの第3弾です。これまでの連載では、建値算出の基礎知識やリスクヘッジの技術を解説してきました。
今回は、2026年初頭に記録された「銅相場1万4500ドル突破とその後の激動」を題材に、相場を「面」で捉えるための実戦的な視点を整理します。数十年の一度の転換点において、市場がどう動き、私たちが何を読み取るべきだったのか。その本質的なロジックを体系化しました。
「期待」と「事実」の乖離を見抜く力
2026年1月29日、LME(ロンドン金属取引所)の銅相場は一時 1トン = 1万4527.50ドルという史上最高値(2026年1月当時)を記録しました 。しかし、その直後の2月2日には利益確定の売りやポジション解消が強まり、高値から14.5%急落する調整局面を迎えました 。
相場のロジック: 歴史的な高値を付ける局面では、しばしば「実需(モノの動き)」を「期待(カネの動き)」が追い越してしまいます 。2026年の急騰局面においても、将来的な電化需要やAI投資への過剰な期待が先行し、需給のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を超えて価格が独走してしまった側面が注目されました 。
実務の視点: 価格が最高値を更新し続ける、いわば「熱狂」の状態の中にある時こそ、「現物の取引意欲(プレミアム)」を確認してください。当時、中国への輸入需要を示す洋山(ヤンシャン)銅プレミアムは1トン当たり20〜39ドル程度と低水準に留まっており 、実需を伴わない「バブルの状態」への警戒が必要なサインが出ていました。
「ニュース」の裏側にある時間軸を測る
相場が下落から反発に転じたきっかけの一つに、「中国の戦略備蓄増強」という報道がありました 。2月3日、中国の非鉄金属工業協会が戦略的な銅備蓄を積み増す方針を示したことで、市場は将来的な供給不足を先読みして価格を押し戻しました 。
相場のロジック: 相場は「事実」よりも「期待」で動きます。しかし、国家レベルのプロジェクト発表は、実際の買い付けが始まるまでに時間がかかることが少なくありません。2026年の事例でも、現地の国営リサーチ機関などは、この計画が産業内の関係各社と協議中の「暫定案」であり、実際には「中長期的な方針の策定段階」に過ぎないとの慎重な見解を示していました 。
実務の視点: 強気なニュースが出た際は、それが「即座の現物買い」なのか「中長期的な制度構築(検討段階)」なのか、その時間軸を見極めてください。時間軸の長いニュースで価格が跳ねている場合、一過性の反発で終わるリスクを想定する必要があります 。
「在庫量」と「スプレッド」で需給の体温を知る
2026年2月初頭、価格の乱高下とは裏腹に、世界の銅在庫は増加傾向にありました 。LME在庫は約9カ月ぶりの高水準となる18万トンを超え 、市場は「コンタンゴ(順ザヤ)」の状態となっていました 。
相場のロジック: 銅相場の「真の温度感」は、価格の数字そのものではなく、在庫の水準と「現先格差(スプレッド)」に現れます。ここで重要になるのが Cash(現物価格) と 3M(3カ月先物価格) の関係です。
- 3M(3カ月物)とは: LMEにおいて「今日から3カ月後に現物を受け取る」約束で取引される価格です 。歴史的に、銅を鉱山から運搬・精錬するのに約3カ月を要したことに由来する、業界標準の指標です 。
- コンタンゴ(Cash < 3M): 現物よりも先物のほうが高い状態です 。保管料や金利が上乗せされる通常の状態であり、現在は「モノが潤沢である」ことを示します 。
- バックワーデーション(Cash > 3M): 現物のほうが高い状態で、「将来まで待てないほど、今すぐモノが欲しい」という逼迫した状態を示します 。
実務の視点: 2026年2月の事例では、在庫が増えながらコンタンゴが拡大(60〜80ドル前後)していました 。これは物理的な供給に余裕があることを意味しており、価格が高騰していてもパニック買いを避けるべき局面であったことが分かります。
コンタンゴ・バックワーデーションの用語について詳しくは下記を参照ください。
銅建値はどう決まる?2 銅相場を「読み」、リスクを「慣らす」〜地金変動に振り回されないための実務・応用編〜
実務の視点:
価格が乱高下していても、「在庫が増え、コンタンゴが維持されている」のであれば、物理的なモノの供給には余裕があると考えられます。この状況を知っていれば、パニック買いを避け、冷静に仕入れを待つという選択が可能になります。
国内建値を左右する「掛け算」の構造:LMEと為替の「綱引き」
日本の銅建値は、以下の数式で構成される「掛け算」の世界です。
国内建値 = (LMEセツルメント価格 × 為替レート) + 諸経費(プレミアム)
この数式の最大の特徴は、海外相場(LME)と為替(ドル円)という、性質の異なる2つの要素が常に「綱引き」をしている点にあります。2026年1月末から2月初旬にかけての記録的な推移を時系列で振り返ると、この「綱引き」の構造が鮮明に見えてきます。
ドル建て価格の激変を「為替」がどう増幅・緩和したかの実例
- 1月29日(木):歴史的な高値と「上げ余地」 LME価格は 14,527.50ドル と史上最高値を更新 。為替が1ドル=152.82円と比較的円高に振れていたものの、LMEの急騰が勝り、理論建値は2,280円に達しました。当時の国内建値に対して約200円という爆発的な「上げ余地」が生じた瞬間でした 。
- 1月30日(金):急落とドル高の始動 米次期FRB議長指名をきっかけに為替が1ドル=156.41円へ急激に円安進行しました。LME価格が 13,161.0ドル へ急反落したため、円安が下落を一部緩和したものの、理論値は2,118円まで沈み、一転して160円ほどの「下げ余地」が生じました 。
- 2月2日(月):続落と「底値」の模索 LME価格が 12,891.5ドル まで大幅続落 。為替は1ドル=156.29円前後で推移し、理論建値は2,057円となりました。依然として当時の国内建値に対して約60円の「下げ余地」を抱えた状態が続きました 。
- 2月5日(木):海外安を打ち消す「円安」 LME価格が 12,903.0ドル と停滞を続ける中、為替はさらに円安が進み 1ドル=157.85円 に達しました 。海外相場が低い水準にあるにもかかわらず、円安が加速したことで理論建値は2,079円となり、前日比での下げ幅は最小限(マイナス6円)に抑えられました 。
- 2月6日(金):反発と価格の「底固さ」の確定 週末に向けてLME価格が 12,994.0ドル と反発し、為替が 1ドル=157.82円 で推移しました 。この結果、理論建値は2,093円となり、当時の国内建値とほぼ一致する水準まで回復しました 。円安がLMEの下落分を完全に相殺し、国内価格を高い位置で固定(底固さ)させていたことがわかります 。
実務の視点:原価管理は「両輪のバランス」で見る
銅合金の原価管理において、LME価格とドル円レートは、片方だけを見ても正確な予測はできません。常に「両輪のバランス」として捉える必要があります。
まず背景として、LME市場では各金属はドルで取引されるため、基本的にドル安の状況では、割安感が生じ、積極的に金属が買われ価格が上昇します。その逆もしかりです。このように、金属価格そのものがドルの価値変動の影響を強く受けていることを念頭に置く必要があります。
その上で、国内価格の変動要因を整理すると、以下の3つのパターンに集約されます。
- LME急騰 + 円安進行:国内価格は爆発的に上昇します(1月29日直後の懸念)。
- LME下落 + 円安進行:海外相場が下がっても、為替による押し上げが働くため、国内コストは期待したほど減りません(2月5日のケース)。
- LME横ばい + 円高進行:海外相場に動きがなくても、為替の影響で日本国内では価格に「下げ余地」が生まれ、仕入れコストが下がるチャンスとなります。
現場の調達・営業担当者としては、LMEのドル価格に一喜一憂するだけでなく、「為替がその動きを増幅させているのか、あるいは打ち消しているのか」という視点を持つことが不可欠です。この「掛け算」の構造を意識することで、急な建値改定にも慌てず、根拠を持った判断が可能になります。
まとめ:相場を「読み」、リスクを「慣らす」
銅は今や、単なる産業資材ではなく、AIやクリーンエネルギーといった未来を支える「戦略物資」です。だからこそ、投資マネーの流入により、実需とは関係なく価格が乱高下することが当たり前の時代になりました。
私たちが実務で持つべき姿勢:
- 「価格」だけでなく「在庫と格差」をセットで確認する: モノの余り具合がわかれば、パニックを防げます。
- ニュースの「時間軸」を見極める: 目先の反発か、長期的な上昇トレンドかを冷静に区別します。
- 「為替の掛け算」を常に意識する: 国内取引においては、為替がコストの半分を握っています。
銅は黄銅、青銅といった合金の主役であり、私たちの技術を形にするための不可欠な元素です。こうした「数字のリスク」を管理する知識を深めることは、高品質な製品を作る技術と同じくらい、現場を守るための強力な武器となります。
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