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クビキ工場が挑む「活人化」への道:TPSとデジタルが融合する現場改善

はじめに:なぜ今、私たちは「変わり続けること」を求めるのか

ものづくりの現場を取り巻く環境は、今この瞬間も変化しています。私たちJマテ.カッパープロダクツ クビキ工場においても、2010年度には115日だった年間休日が、2026年度には120日へと増加しました。休みが増えることは喜ばしいことですが、現場視点では「限られた時間で、これまで以上の成果を出す仕組み」が不可欠になったことを意味します。
クビキ工場の大きな特徴は、女性従業員や契約社員が多く活躍している点です。家庭の事情や急な体調不良など、突発的なお休みが発生しやすい環境だからこそ、私たちは「誰かがいないと回らない現場」から脱却し、「誰もが助け合い、安心して休みが取れる職場」を作らなければなりません。
今回のコラムでは、私たちがトヨタ生産方式(TPS)の考え方をJPS(Jマテ生産方式)に昇華させ、どのようにアナログな改善とデジタルの活用を組み合わせてきたか。その具体的な歩みをご紹介します。
改善の「土台」を作る:徹底した事前の棚卸し
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を聞くと、最新のシステムを導入すればすべてが解決するように思えるかもしれません。しかし、私たちはあえて逆の道を選びました。ツールの検討を始める前に、まずは現場の泥臭い「現状分析」からスタートしたのです。
私たちは、受注から出荷までの全業務フローを対象に、大規模な「総棚卸し」を実施しました。
業務を「定常業務」「レギュラー業務」「非定常業務」「イレギュラー業務」の4つに分類し、さらに「1時間単位」から「3ヶ月単位」まで、どの作業にどれだけの時間がかかっているのかを徹底的に見える化しました。
その結果、驚くべき事実が見えてきました。工場全体の残業時間のうち、実に43%が「第2加工課」という特定の部署に集中していたのです。さらに深掘りすると、それは個人のスキルの問題ではなく、「情報の断片化」や「部署間の連携不足」といった、仕組みそのものの不備が原因であることが分かりました。
つまり、特定のベテランだけがやり方を知っている「個人商店化」が起きていたのです。この状態のままデジタルツールを入れても、複雑なムダを自動化するだけに終わってしまいます。まず取り組むべきは、現場の運用ルールを整える「アナログな改善」でした。
運用を変える「タスクシフト」:時間の分散、業務移管
「標準作業のないところに改善はない」——これはTPSの大切な教訓です。私たちは、第2加工課の負担を減らし、工場全体の流れをスムーズにするために、「タスクシフト(業務移管)」という手法を取り入れました。
具体的には、日勤と夜勤の役割分担を根本から見直しました。
これまでの課題は、朝の機械立ち上げに時間がかかり、生産開始が遅れてしまうことでした。そこで、従来は日勤者が朝の忙しい時間帯に行っていた「付随する業務」を、夜勤の終了間際の時間帯へ「移管」させたのです。
移管した主な業務は以下の通りです。
- 日報処理: 1日平均94件、計282分かかっていた作業を夜勤者と分担。日勤者の負担を105分削減しました。
- 日常点検: 機内の切粉除去や給油作業、翌日の梱包箱作りなど。
この「105分の捻出」が、大きな変化を生みました。日勤者が朝に出社してすぐにメインの生産業務に集中できるようになったのです。
もちろん、最初からすべてが上手くいったわけではありません。導入当初、定時内の生産目標達成率(私たちはこれを「星取率」と呼んでいます)は52%に留まりました。しかし、ここで諦めず、現場チームで毎日「なぜ遅れたのか」「どこにトラブルがあったのか」を話し合い、引き継ぎ表やスキルマップを改善し続けました。その結果、現在では星取率は96%まで向上することが出来ました。
「カン・コツ」の数値化:教育のバリアフリー化
現場の運用が整い、標準作業が確立されて初めて、デジタルの出番がやってきます。私たちがデジタルに求めたのは、ベテランの頭の中にある「カンやコツ」を誰にでも分かる形に「翻訳」することでした。
特に力を入れたのが、AIを活用した動画マニュアルやOPL(ワンポイントレッスン)の作成です。クビキ工場には外国人実習生も多く在籍していますが、従来の日本人向けマニュアルでは、言葉のニュアンスが伝わりにくいという課題がありました。
そこで私たちは、以下のような「情報のバリアフリー化」を進めました。
- 言葉の置き換え: 専門用語である「ペンダント」を、誰にでもイメージがつく「リモコン」と言い換える。
- 徹底した視覚化: ボタンの色、場所、拡大写真を多用し、直感的に操作が分かるようにする。
- 感覚の数値化: 「いい塩梅で」「ゆっくりと」といった曖昧な表現を排除し、速度、角度、温度、振動といった要素を数値で定義しました。
ここで重要なのは、単に数値を固定するのではなく、「この範囲内ならOK」という「数値の幅」を持たせることです。これにより、経験の浅い若手技術者や実習生でも、迷うことなくベテランに近い判断ができるようになります。デジタルは、熟練の技術を「誰でも使える武器」に変えるためのツールなのです。
まとめ:私たちが目指している「活人化」のあるべき姿
今回の取り組みを通じて、私たちは必要な労働量を67人工から62人工へ、つまり「常時5人分」の余力を生み出すことを目標に掲げて活動しています。
ここで誤解していただきたくないのは、この5人分を「人員削減」のために使うのではない、ということです。私たちの目的は、あくまで「活人化」にあります。ムダな作業や待ち時間を削ることで生まれた時間を、より付加価値の高い業務や、新しいスキルの習得、そして「しっかり休める環境づくり」に充てる。これこそが、Jマテ.カッパープロダクツが考えるDXのあり方です。
「ツールを導入して終わり」のDXには、魂が宿りません。
現場を観察し、ムダを見つけ、アナログな手順を整える。その土台の上に、そっとデジタルを添える。この順番を間違えないことこそが、改善を継続させ、強い現場を作る唯一の道だと確信しています。
DX推進者の皆さん、そして現場を支えるリーダーの皆さん。
DXとは、決して遠い世界の技術ではありません。目の前の「不便」や「属人化」を、一つひとつ標準化していく。その積み重ねの先に、誰もが主役になれる新しいものづくりの形があるのです。
私たちJマテ.カッパープロダクツは、泥臭い現場活動を中心にこれからも「人にしかできない仕事」を大切にするために、たゆまぬ改善を続けてまいります。
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クビキ工場|水道関連銅合金部品の加工拠点|Jマテ.カッパープロダクツ
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