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【連載:VTO16搬出の記録】 第3部:手動加工から数値制御へ。VTO16が支えた技術の転換と稼働の終了

はじめに
第2部では、昭和48年の導入から今日まで、熟練工の管理職Kさんの技術者たちと共に歩んだ53年間の足跡を振り返りました。完結編となる本記事では、VTO16の稼働期間における工作機械の進化と、その役目を終える最終盤の経緯について記録します。
感覚的な調整を要した手動機の時代
VTO16が導入された当時、工作機械の主流は作業者が操作を行う「手動機(汎用機)」でした。現代のNC機のように、あらかじめ入力されたプログラムによって自動で動作する仕組みはなく、すべての切削工程は作業者の判断に委ねられていました。
特に、当社が扱う銅合金の加工には、材料固有の熱伝導率や粘りに対する専門的な知見が必要です。当時の技術者は、ハンドルの手応えによる負荷の感知や、切削音、切り屑の状態を「物理的な情報」として受け取り、それらに基づいて刃物の送り量や回転数を微調整していました。この精緻な人的調整が、当時の加工精度を支える不可欠な要素となっています。
数値制御(NC)への技術転換
その後、コンピュータによる数値制御(NC)技術が普及し、当社の製造体制も大きな変革を遂げました。この進化は、以下のような品質管理の安定化をもたらしました。
- 再現性の確立: 作業者の経験値の差に依存せず、プログラムに基づき一定の品質を維持。
- 生産の効率化: 複雑な形状加工を自動化し、高速かつ安定した供給が可能に。
- 技能の数値化: 経験則に基づく「勘所」を、切削条件というデータ(論理)へ置き換え。
主力がNC機へと移り変わる中でも、VTO16は手動機ならではの汎用性を活かし、最新機では対応しづらい微細な調整や、データ化しきれない加工領域を補完する役割を果たし続けてくれました。
更新当日に発生した設備故障

VTO-16
今回の搬出は、長年現場を支えたVTO16の引退と、最新のNC機への完全な移行を目的としたものです。山本産業時代から引き継がれてきた設備を撤去することに対し、管理者として一つの区切りをつける難しさを感じていたのも事実です。
しかし、VTO16の搬出の検討を進める中で、先立って後継となる更新機械の搬入があり、当日にある出来事が起きました。 代替となる新しいNC機の受け渡しが完了したその日、これまで53年間にわたり大きな事故もなく稼働し続けてきたVTO16が故障し、稼働不能となったのです。
このタイミングでの故障は、長年の稼働による経年劣化が限界に達したことを表す出来事でした。設備としての耐用年数を全うしたその状態を確認し、工場長はこれ以上の修繕や稼働延長を行わず、予定通り搬出することを最終的に決断いたしました。
清祓(きよはらい)と安全への誓い

清祓の様子
搬出前日の2月20日(金)、現場は圓田神社の宮司を招き、関係者参列のもと清祓を執り行いました。50年以上にわたり重大事故を起こさず、膨大な数の製品と技術者を送り出してきた設備に対し、礼を尽くして見送りたいと考えて開催したとのことで知る限りでは初めての出来事です。
物理的な設備としてのVTO16は工場を去りますが、熟練工のKさんを始め諸先輩方がこの設備を通じて確立した「加工の基準」や「品質へのこだわり」。その精神は、現在のNCプログラムの設定や、現場の安全管理基準の中に確実に産機工場の段取り者へと継承されています。
結びに
手動操作の時代から数値制御の時代へ。 工作機械の制御方式は変わりましたが、私たちが維持すべき「設備への細やかなメンテナンス」と「材料に対する真摯な姿勢」に変わりはありません。
VTO16、53年間にわたる長期間の稼働、本当にお疲れ様でした。 この設備が築いた技術的基盤を土台に、私たちは次の世代のものづくりを継続してまいります。 管理責任者として、工場長はその最後をしっかりと見届けることができました。
これまでこの機械を守り続けてくださった熟練職人の方々は、日本のものづくりを支えた真の英雄であり、その技術と情熱に心より敬意と感謝を表します。
第1部についてはこちら
【連載:VTO16搬出の記録】第1部:53年間にわたる稼働への感謝と「清祓(きよはらい)の儀」 | 銅合金辞典
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