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アルミニウム青銅の「熱処理」を再考する

1. 鋳放し品・焼鈍品・熱処理品(HT材)の違いをどう読み解くか
製造現場や設計との打ち合わせで、「熱処理をして強度を上げよう」という言葉を耳にすることは少なくありません。しかし、銅合金、特にアルミニウム青銅において、熱処理は一律に性能を向上させるための操作ではありません。鋳造後の状態や、部品に求められる役割によって、材料の性格は大きく変わります。
今回は、アルミニウム青銅の代表的な材質(C95400、C95500 など)を例に、「鋳放し品」「焼鈍品」「熱処理品(HT材)」の3区分を前提として、それぞれの意味と使い分けの考え方を整理します。
2. 3区分の定義を整理する
- 鋳放し品
鋳造後、意図的な再加熱を一切行っていない状態の材料を指します。
鋳造時の冷却条件や肉厚差、成分偏析の影響を強く受けるため、組織状態や機械的性質にはばらつきが生じやすいのが特徴です。鋳放し品は、鋳造組織をそのまま保持している一方で、条件によっては本来得られるはずの延性(伸び)が十分に発揮されていない場合もあります。
- 焼鈍品
焼鈍品とは、強度や硬度の向上を主目的とせず、残留応力の緩和や組織の安定化を目的として再加熱を行った材料を指します。硬度や強度が低下する場合や、伸びが回復・向上する場合がありますが、これらは異常や失敗ではなく、焼鈍の目的に沿った正常な挙動です。焼鈍品は、鋳放し品の性格を大きく変えずに、状態を整え、ばらつきや不安定要素を低減した材料と位置づけることができます。
- 熱処理品(HT材/Heat Treated)
鋳造後、強度・硬度・耐摩耗性の向上を明確に狙って熱処理を施した材料を指します。
溶体化処理や時効処理、あるいはそれらを組み合わせた工程が該当します。
3. 各区分における材料特性の違い
- 鋳放し品の特徴
鋳放し品は、鋳造由来の組織と応力状態をそのまま保持しているため、
- 組織や機械特性にばらつきが出やすい
- 条件によっては伸びが十分に得られない場合がある
といった特徴を持ちます。
一方で、鋳造組織をそのまま活かしたい用途では、有効に使われる材料です。
- 焼鈍品の特徴
焼鈍品は、鋳放し品の基本的な性格を維持しつつ、
- ばらつきの低減
- 伸びや靱性の回復・安定
- 寸法安定性や信頼性の向上
を図った材料です。焼鈍は、性能を新たに付与する操作ではなく、鋳放し状態で十分に発揮されていなかった性質を引き出す操作と捉えるのが適切です。
- 熱処理品の特徴
熱処理品(HT材)は、材料の性格を明確に「強度寄り」に切り替えた状態です。
高い面圧や荷重がかかる条件、あるいは摩耗条件が厳しい場合に有効ですが、延性低下や脆性的な破壊挙動のリスクを理解したうえでの選定が必要です。
4. 強度と伸びの関係をどう理解するか
アルミニウム青銅では、強度と伸びは単純な一方向のトレードオフではありません。
- 鋳放し品:組織次第で伸びが不足する場合がある
- 焼鈍品:伸びが回復・安定する場合がある
- 熱処理品(HT材):強度向上と引き換えに伸びが低下する
このように、材料がどの区分に属しているかによって、強度と伸びの関係は切り替わります。
そのため、材料を比較する際には、「鋳放しか、焼鈍か、熱処理品か」という前提条件を明確にしたうえで評価することが不可欠です。
5. 実務における使い分けの判断基準
- 鋳放し品が適するケース
- 鋳造組織をそのまま活かしたい場合
- 鋳造後の追加工程を最小限にしたい場合
- 比較的穏やかな摺動条件や荷重条件
- 焼鈍品が適するケース
- 鋳放し品のばらつきを抑えたい
- 伸びや安定性、信頼性を重視したい
- 鋳放しの性格を保ちつつ、安全側に寄せたい
- 熱処理品(HT材)が適するケース
- より高い面圧や荷重がかかる部位
- 鋳放し品や焼鈍品では摩耗寿命が不足するような、より過酷な摺動条件
- 高応力設計や部品の小型化が必要な場合
6. まとめ
アルミニウム青銅における熱処理は、一つの操作で全てを解決する万能手段ではありません。
- 鋳放し品:鋳造組織をそのまま使う
- 焼鈍品:鋳放しの状態を整え、安定させる
- 熱処理品(HT材):材料の性格を強度寄りに切り替える
この 3区分を明確に意識することが、材料特性を正しく理解し、用途に応じた選定を行うための基本となります。
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