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銅合金の「摺動性」と「馴染性」――焼き付きを防ぐメカニズムを解説
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銅合金の「摺動性」と「馴染性」――焼き付きを防ぐメカニズムを解説
産業機械の安定稼働を支える軸受やブッシュといった部品において、最も避けたいトラブルの一つが「焼き付き」です。このトラブルを回避するために、銅合金には「摺動性(しゅうどうせい)」と「馴染性(なじみせい)」という2つの重要な特性が求められます。
これらは似た文脈で使われますが、実は異なるメカニズムを持っています。今回は、銅合金がなぜ摺動材料として優れているのか、その本質を整理して解説します。
1. 「摺動性能」とは何か:摩擦と損傷を抑える能力
機械工学における摺動性能とは、部品同士がこすれ合う際に、摩擦抵抗を小さくし、表面が傷つくのを抑える能力のことです。銅合金がこの性能に優れているのには、3つの明確な理由があります。
- 耐凝着性(たいぎょうちゃくせい):
鉄系材料(鋼軸など)と接触しても、金属同士がくっつきにくい性質です。潤滑油が不足しがちな過酷な条件下でも、瞬時に焼き付くのを防ぎます。
- 低い摩擦係数:
滑りが良いため、回転や移動の際のエネルギーロスが少なく、摩擦による発熱も抑えられます。
- 優れた熱伝導性:
万が一摩擦熱が発生しても、銅の特性である「熱の伝えやすさ」によって熱を速やかに逃がし、摺動面の温度上昇を防ぎます。
現場でのポイントとしては、摺動性能は「いかに滑らかに動かし、発熱を抑えるか」という、定常状態が重要です。
2. 「馴染性」とは何か:不完全さを許容する柔軟性
一方で、馴染性(Conformability)は、銅合金が「理想的な状態ではない現場」で真価を発揮するための特性です。これは、軸受の表面がわずかに変形したり摩耗したりすることで、相手の軸の形に自らを合わせていく性質を指します。
実際の設計や組み立てでは、目に見えないレベルの加工誤差や、取り付けの傾き(片あたり)を完全にゼロにすることは困難です。ここで馴染性が重要になります。
- 適度な柔らかさ(弾性係数・降伏特性の影響):
鋼に比べて銅合金は弾性係数が低いため、荷重がかかった際に柔軟に変形や摩耗し、接触面積を広げて荷重を分散させることができます。
- 微小摩耗による適合:
強く当たっている部分がわずかに摩耗することで、マクロな視点での接触状態が改善され、面圧(単位面積あたりの負荷)が均一化されます。
- 異物を包み込む力(埋収性):
銅合金は適度に柔らかいため、潤滑油に混じった微細なゴミを自らの表面に埋め込むことができます。これにより、相手の軸を傷つけるリスクを減らします。
現場でのポイントとしては、馴染性は「設計上の理想と現実のズレを、材料自身が変形してカバーしてくれる能力」のようなイメージです。
3. 「摺動性」と「馴染性」のコンビネーション
これら2つの特性は、バラバラに存在しているのではなく、互いを補い合っています。
まず、運転の初期段階では「馴染性」が働き、片あたりを解消して接触面を整えます。面が整うことで、摺動面全体に安定した油膜が作られやすくなります。
その後、安定した稼働状態に入ると、今度は「摺動性」が主役となり、低い摩擦で長期間の摩耗を抑え続けます。
4. 潤滑が厳しいときこそ材料の差が出る
理想的な潤滑状態(油膜がしっかりある状態)では、どんな材料でもトラブルは起きにくいものです。しかし、機械の「起動時」や「停止時」、あるいは「低速で重い荷重がかかる時」などは、油膜が切れて金属同士が直接触れ合う「境界潤滑」という状態になります。
ここで、銅合金に含まれる成分が大きな役割を果たします。
- 固体潤滑成分の働き:
例えば、青銅系(現行JIS規格のCAC406など)や鉛青銅(現行JIS規格のCAC603など)のように、組織の中に鉛(Pb)などが分散している材料では、その成分が潤滑剤の代わりとなって焼き付きを遅らせます。
- 熱的な限界:
ただし、摩擦熱が材料の限界温度(低融点成分を含む場合はその温度付近)に達すると、急激に強度が落ちて「溶着(焼き付き)」に至ります。材料ごとに耐えられる温度の目安を知っておくことは非常に重要です。
5. まとめ:銅合金を選ぶということ
銅合金が軸受やブッシュに選ばれ続けているのは、単に「滑りが良い」からだけではありません。加工の誤差や過酷な運転条件といった「現場の不完全さ」を、材料が自ら形を変え、摩擦をいなすことで許容してくれるからです。
「馴染性」で初期のズレを吸収し、「摺動性」で定常の摩擦を抑える。
このメカニズムを理解して材料を選定することが、機械の寿命を延ばし、予期せぬ停止トラブルを防ぐための第一歩となります。
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