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【材料選定の基礎】「ドロー材」と「鋳放し矯正材」は何が違う?加工設備から考える連続鋳造品の選び方
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はじめに
銅合金の連続鋳造品は、水道部品から産業機械の摺動部品まで幅広く使用されています。
しかし、同じ材質を選定しても、発注時の「仕上げ形状」によって、その後の加工効率が劇的に変わることをご存じでしょうか。
カタログや仕様書で見かける「ドロー材(引抜材)」と「鋳放し矯正材(いばなしきょうせいざい)」。
これらは一見すると同じ丸棒に見えることもありますが、その寸法精度や適している加工設備は明確に異なります。
今回は、加工現場でのトラブルを防ぎ、コストを最適化するために知っておくべき、これら2つの材料グレードの違いについて解説します。
決定的な違いは「冷間引抜(コールドドロー)」の有無
まず結論から申し上げますと、両者の最大の違いは、製造工程の仕上げ段階において「冷間引抜(コールドドロー)」を行っているかどうか、という点にあります。
連続鋳造で作られた製品素材に対し、さらにダイス(金型)を通して物理的に引き抜き、寸法を矯正して表面を仕上げたものが「ドロー材」です。
一方で、鋳造したままの素材に対し、曲がりを直す工程のみを行ったものが「鋳放し矯正材」です。
この工程の違いが、寸法精度と表面状態に決定的な差を生み出し、それぞれに適した「加工機」を分ける要因となります。
ドロー材・矯正済み材(自動機・量産加工向け)
NC自動旋盤などを用いた「連続機械加工(バーワーク)」を行う場合、このドロー材が選定の第一候補となります。
特徴:寸法精度の高さと表面の平滑さ
ドロー材の最大の特徴は、寸法公差が非常に厳しく管理されている点です。
例えば当社製造のCAC406Cφ30mmの材料であれば、「0 〜 -0.05mm」といった高い精度で仕上げられます。また、製造プロセスには以下の2種類がありますが、いずれも表面の凹凸が少なく滑らかです。
- 黒皮ドロー材: 表面に酸化被膜(黒皮)が残っているが、寸法は高精度。(当社の対応はこちらになります)
- ピーリングドロー材: 表面を一皮むいて研磨し、金属光沢を出したもの。(当社では対応不可となります)
なぜ、そこまでの精度が必要なのか?
理由は、使用する「チャッキング(固定)方式」にあります。 自動機で材料を連続供給する場合、「コレットチャック」という筒状の治具を使用するのが一般的です。コレットチャックは、材料の外周を面で包み込むようにして把持します。
もし材料の外径にバラつきがあったり、曲がりが大きかったりすると、以下のようなトラブルが発生します。
- 把持力不足: チャックの中で材料が滑り、加工不能になる。
- 供給エラー: 材料がチャックを通らず、機械が停止する。
- 精度の悪化: 高速回転時に材料が暴れ、加工精度が出ない。
ドロー材は、曲がり精度も「1mm/1m 以内」など厳格に管理されており、自動機での無人運転や量産加工を止めないための「信頼性」が担保された材料と言えます。
鋳放し矯正材(汎用・個別加工向け)
一方、鋳放し矯正材はドロー工程を通していません。
主に汎用旋盤やNC旋盤で、作業者が一つひとつセットして削るような「個別加工」や「多品種少量生産」の現場で選ばれます。
特徴:鋳放し寸法と削り代
表面は「鋳造肌(キャスト肌)」の状態であり、ドロー材に比べると微細な凹凸や酸化被膜が残っています。
寸法精度は「As-cast(鋳放し寸法)」となるため、ドロー材ほど厳密ではありません。
選定と加工のポイント
この材料を使用する場合、表面の黒皮や不整層を削り落とす工程が必要です。そのため、製品の仕上がり寸法に対し、十分な「削り代(取り代)」を含んだ素材サイズを選定する必要があります。
一見扱いづらそうに見えますが、以下の理由から広く採用されています。
- チャッキングの柔軟性:
汎用加工では、主に「スクロールチャック(3爪チャック)」などを使用します。爪でガッチリと掴む構造のため、多少の寸法公差や表面の粗さはチャック側で吸収可能です。
- サイズ対応力:
ドロー材はダイス(金型)が必要なためサイズに限りがありますが、鋳放し材は大径サイズまで柔軟に対応可能です。
設備と目的に合わせた使い分け
最後に、2つの材料の違いを表に整理しました。
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特徴 |
ドロー材 (量産用) |
鋳放し矯正材 (一般用) |
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主な加工プロセス |
鋳造 + 冷間引抜(ドロー) + 矯正 |
鋳造 + 矯正のみ |
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外径精度 |
高精度 (例: 0/-0.05mm) |
鋳放し公差 (削り代が必要) |
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主な用途 |
自動機での連続加工 (バーワーク) |
汎用旋盤での個別加工 |
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適したチャック |
コレットチャック (面で包む) |
スクロールチャック等 (爪で掴む) |
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メリット |
自動化ラインを止めずに回せる |
大径対応が可能でコストメリットが出やすい |
現場で意識すべきポイント
材料選定は、単に「安いほう」や「手に入りやすいほう」を選ぶのではなく、「どの機械で、どうやって削るか」から逆算して決める必要があります。
- 自動機で数を流すなら: 迷わず「ドロー材」を選び、段取り時間を短縮する。
- 汎用機で単品加工なら: 「鋳放し矯正材」を選び、材料費を抑えつつ柔軟に対応する。
それぞれの材料の「製造工程」を理解し、適材適所で使い分けることが、品質と利益の両立につながります。
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